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昨日、ツアーの最後のライブが終わった。
これから2日間のスケジュールには何も入っていない。
何かと動き続けていた数年。
学生時代からの付き合いで、今はマネージャーをしているタケシが空けてくれたのだろう。
何も言ってないのに。
特にやりたい事も、行きたいところもないのだけれど、
なんとなく、空港に行き、飛行機に乗った。
来たことのない日本海に面した街に降り立つ。
さてどうするか?
レンタカーを借り、海岸線を東に向かって走る。
海が青い。
小さな入り江の奥にある喫茶店に入り、
海を見ながら食事ができるように窓際に設けられたカウンターに座った。
誰かに見られるのを避けているわけでもないのに、なんとなく癖のようになってしまっている。
他のお客も店の人も誰も俺に気づいてないのに。
この感覚も久しぶりだな。
いつも声をかけられる事は無くても、誰かが気づいて俺に向けられる空気を感じてしまう。
それにも、もう慣れてしまっているのだけれど。
ゆっくりと食事を摂った。
さてどうするか?
喫茶店の前の小さな海岸に降りてみる。
シーズンでもないし、地元の人もいなくて、ひっそりとしている。
右手が港の防波堤になっていて、左手は小さな峠の山があるので、海なのに視界が狭い。
今の俺にはちょうどいいのかも。
なんだか落ち着く。
どれくらいそうしていたのか。
夕日が沈み始めて、ますます動けなくなった。
凄いな、やっぱり。
夕日が沈みきってしまうと、徐々に周りが色を失っていく。
波の音しかしない、とても静かだ。
どこからか、ドラムとギターの音が聞こえてきた。
俺の曲のようだ。時々、リズムがズレる。
下手だな、まだ。
思わず、笑ってしまった。
帰るか。
今なら、最終便に間に合うだろう。
fin
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