サンクチュアリ

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 時間はそこから巻き戻る。まず、おれがここに到着した経緯だ。  それが今から何日前だったのか。正確に言うことはできない。記憶がたしかであれば二か月くらいは超えている。だが、絶対にそうだとも言えない。記憶はなにしろ曖昧だ。記憶というものは、ここではあまり当てにならない。  最初におれが見たのは、自分の二つの足が踏む白砂だ。そこからゆっくり視線を上げる。白砂のビーチと、向こうには松林。ビーチに沿って長く続く緑濃い緑の松林の上には、くっきり青い夏の空があった。  こんどは視線を後ろに移す。そこにあるのは海だ。沖には、少し左手の位置に大きな島影がある。その島の左右、さらに遠くまで海が広がり、その果てには、うっすらと対岸の陸地が見えていた。  夏の強い日差しの下で白く光その海上には、船の姿は一隻もなかい。  足元に寄せる波は、ひたすら単調でおだやかだ。風はない。  ざん、ざん… 無限に繰り返す波音だけがここにある音だ。甘く湿った潮の香りが、肺の奥深くまで自然に入り込んでくる。 「けど… なんでだ…?」  ここがどこだか知らないが。  とにかく妙だ。理由がない。ここに今おれがいるべき理由が。  なぜなら。  おれの記憶が正しければ―― おれが今いるべき場所は中部地方の海なし県、そこの南部県境寄に位置する××市の郊外だ。水泳部の部活を終えて自転車で帰路についていた。交通量の多い田舎国道を音楽を聴きながらだらだらと流して、バイパスとの交差点を過ぎ、農業用のでかい溜池の横をさらに流して、そこからさらに――  そうだ。  自転車。部活の帰り。家に帰ったら冷蔵庫からアイスを取り出して――  とか。  そういう夏の日常に、おれは確かにいたはずだ。  だけど。それなのに。  これはなんだ?  どこだ、ここ?  ビーチ? 海…? いったいおれは――
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