サンクチュアリ

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 明るい松林を抜けると、まぶしい夏の光に照らされた住宅街がひらけた。  彼女の案内で、住宅街の一車線の道路を二人で歩く。日中、ほとんど裸同然の恰好で知らない町を歩くというのは奇妙なものだ。ふだんプールでこの格好には慣れているが。さすがに見知らぬ女子とならんで町中を歩くのはありえない。誰かが角をまがってきて、今そこで鉢合わせたら、と。さっきからおれはびくびくしている。熱く焼けたアスファルトの上。しかも裸足だ。くそ、マジでこれは火傷するだろ!  まあしかし、どことも知らないこの住宅地―― 家の作りが、おれの地元の町とはどことなく違う。まずもって一軒一軒の敷地がゆったりとしている。二階建て以下の低い家ばかりが目につく。日焼けしたブロック塀に囲まれて、入り口から建物の玄関のあいだに広い庭がある。まあしかし、古いか新しいかで言うと―― 古めの家が多いようだ。伝統家屋と言うほどに古風でもないが、おれの町の、どこにでもある新建材を使った住宅とだいぶ感じが違う。  しかし――   なんだか妙に、動きがないな。幅四メートルほどのアスファルトの道路には、おれと彼女の二人の他に歩く者はいない。走ってくる車もまだ一台も見ていない。夏の午後の強烈な日差しが、家々の屋根とアスファルトの地面と、それから家の庭の灌木や芝生、路肩の電柱や側溝のコンクリートの上にくまなく容赦なく照り付けている。しかし、何も誰も動かない、猫一匹いない。  妙な感覚だ。  まるで、よその国に似せたテーマパークで、誰ひとり実際には生活していない偽の住宅地を歩く気分と少し似ている。ここはもちろん異国ではなく、日本の町ならどこにでもありそうな、それほど見栄えのしないただの住宅地だ。しかし何か、どうにも違和感がある。なにかが変だ。しかし何が――  まあでもそうこうするうちに、まもなくおれたちは「国道」に出た。  
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