サンクチュアリ

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 おれはといえば――  プラットホームの下。  単線軌道の真ん中に、円筒形の二つのフラッシュライトを両手にもって。  いまおれは、線路のあいだに両足でおりたった。  そしてライトを闇のむこうに向けた。赤の踏切が、はげしく光と音をかき鳴らす―― ホームの向こうの闇に向かって。 「ちょっと! 古瀬くん! 危ないよ! 来てるよ、電車!」  ホームの上で野添が叫ぶ。  おれは右手をあげて、「大丈夫。心配するな」という感じで、すばやく何度か手をふった。  それからライトを東の方向に戻し。いままさに、少しずつ接近しつつある遠くのまぶしい光の輪にむけて、何度も大きくライトをふった。  上下、左右、そして斜め。上下、左右、斜め。 ――たのむぞ。届いてくれ!  ひまわり畑を割って疾走してくるその列車の運転席の窓から―― はたしておれの、光の合図は見えているのか。  見えていてくれ。というか。見えてなきゃだめだ。絶対に。たのむぞ、マジで。  どんどん近づいてくるその黄色い光の輪が―― もうだいぶ、近い。足元の線路が、かすかに振動しはじめた。来ている。来ている。来てるぞ、列車――  見えてるか? 見えていろよ! 見てくれ、これを!   ここに人がいるぞ! とまってくれ! とまれ! さあ、速度を落とせ!  心の中で叫びながら。せまりくる光にむけて、まだ今もひたすらライトをふり続けるおれだったっが――   もういい加減、見えてるならばブレーキかけて速度が落ちそうなものだが―― まだそれは、ぜんぜん速度が落ちてない。速度が落ちない。  おい、見えてないのか? 見てないのか? おい。たのむよ! マジで! 見てくれよ!  パアアアアアアアアンンンン……  闇のむこうから、激しい音がいきなり叩きつけた。  一瞬心臓が止まるかと思った。  あれは警笛だ。警笛。ということは――  見えたのか? 見たのか? 見てるのか、おい? だがそれにしては――  速度がまだ、ぜんぜん、まったく、落ちてきてない! 「ちょっと! 危ない! もうよして! 来てる! はやく! こっちに上がって!」  槙島スグリが激しく叫んだ。 「古瀬くん!」  野添の声も飛んでくる。  まぶしい光のかたまりが―― もう、あと、距離はどれだけだ? もうこれ、来ている! 近い!  さすがにもうこれまでだと。思っておれは、線路のあちら側―― ひまわり畑の方へ。すぐに体を移動しようと―― 頭はたしかに、そう考えて。  でも―― なぜだ?  足がまったく動かない。  なんだかまるで、ヘビに見入られたカエルみたいに。  おれの視線は、ぐんぐんこっちにすべってくる巨大な光のかたまりに吸いつけられた。  何だこれ―― 体が――   足が―― なぜだ? 動かない、だと??
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