サンクチュアリ

70/74

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
「古瀬くん!!」  野添が叫んだのと、それが来たのと、目がくらんだのと、何かが激しくぶつかっきたのと。  すべてが同時に爆発的に展開し――  おれはそして―― やわらかな土の上で体がごろごろ転がって――  その横を。激しい振動をたてて、巨大なそれが追い越していく。  ゴウゴウと激しく鉄の車輪がとどろき、焦げたような突風が吹き過ぎる。  おれはその、もうもうと立つ土埃の中――  おれの上にまるごとかぶさった、その、やわらかいもの――  それの重さを体に感じて。暗い土の上につっぷして―― 「野添…?」  そうだ。さっき、あの瞬間。  野添が。野添が体を投げ出して――  おれにまるごと、おっかぶさるように。  おれの体に、体をぶつけて―― 「バカッ! バカッ! 古瀬くんのバカ!」  いきなり野添がげんこつで、おれの肩をドンドン叩いた。 「死んじゃうとこだったよ! ほんとにほんとに、危なかった! 死ぬとこだったよう! ほんとにバカ! 古瀬のバカッ!」  はげしく叩いて、同時に野添は泣きじゃくる。  おれは土の上に体を半分起こし―― まだおれの肩を、胸を、どんどん拳で叩きつづける野添みなみの、彼女の感情の爆発を―― おれはただそこに座り、なすすべもなく受け止めるしかなかった。 「見て! ほら! 電車が!」  ホームの上から、槙島スグリの声が飛んできた。  おれと野添は顔をあげ――  その闇の向こうを―― 駅をはるかに通り過ぎた、その、向こうの畑の中。闇にとけて消えた線路の続きを。息をとめて見つめた。見つめた。目がもう、そこからはなせない。  激しい音と振動をふりまいて猛スピードでそばを駆け抜けていったそのオレンジの光が。   止まった。向こうの畑の中央で。  ここから数百メートルいった先の暗闇の中で。  止まった。ぴたりと動きを止めた。    そしてそこから巻き戻る。光がゆっくり、こちらの方へ。  かすかに線路を振動させて、列車がこちらに戻ってきている! そしてそれはもう―― 単なる光の輪でなくて。はっきりとした、四角い列車の形をとって。戻ってくる。ゆっくりとした速度で。こちらにむけて後退してくる!
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加