再誕の未来に

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再誕の未来に

200年ぶりの、マオ=ワィミェの再来。 夜の帷とともに現れた。 空に走る巨大な黄金の尾と、一筋の涙。 遺伝子記憶に刻まれた、何かが震える。 「…美しいな」 ハシュロゥは、空っぽの胸の前に、拳を握りしめた。 先祖たちは、この光景を永遠に留めようと躍起になったのだろう。 遺伝子記憶に刻まれるのは分かっているのに、偶像を肌身離さず持ち、語り継いできた。 キルエも、目を奪われている。 「これが、マオ=ワィミェ」 リャカェが、首飾りに触れる。 「ありがとう。  どうか、これからもよろしくお願いします。  私たちがどれほど変わっても、  イー人でなくなり、アー人でなくなっても、  変わらずこの星を訪れ、  涙を流してください」 変わってしまったのは私たちであって、マオ=ワィミェは変わらずある。 ずっと変わらずにあったのだ。 ならばこれからも、どうか変わらずに。 私たちがどう変わろうと。 種族を捨てようと。 滅びようと。 どうか。 「…何だその祈り」 遺伝子記憶の祈りの言葉と全然違う。 ハシュロゥは笑い、ようやく目を下ろした。 リャカェも笑い返した。 「マオ=ワィミェは彗星で、  200年周期でめぐるだけ。  神でもないし、絶望を払ってもくれない。  それでもいいんだ」 今度はキルエを見上げた。 「遺伝子記憶にないことを、  アー人が教えてくれた。  彗星が落としていくチリが、  流星群のもとになるのだと。  毎年私たちが見てきたのは、  200年前にマオ=ワィミェが落としていった、  涙の名残だったんだ」 キルエは、ようやくハシュロゥを見ることができた。 「これからも、ずっと一緒に、流星群を見よう」 「これからも」 その夜は、地平線に落ちていくまで。 ずっと。 その巨像を見つめ続けていた。 これまでと、これからを。 続くことを祈っていた。 振り返った3人には、静かな朝焼けが待っていた。 終
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