戦場のブライド

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 蒼天の空に漂う白い雲、果てしなく広がる新緑の草原、小高い丘にぽつりと佇む小さな一軒家。 「ん、ん……」  一人の男がその一軒家で目を覚ました。  男が辺りを見渡すと、自分が白いベッドの上に横たわっていることに気づいた。  すぐ右側にはチーク材の丸テーブルがあり、その上に野花の飾られた小さな一輪挿しが置かれていた。  とても素朴だが、自分が理想としていた場所がそこにあった。  そして左側に目をやると、失ったはずの腕がベッドの上に横たわっていた。  指先を動かしてみると、薬指に指輪がはめられているのが見えた。いつか教会で見たような光の帯が窓から差し込み、その指輪に反射した。 「ああ、天国とはこんなに素晴らしい場所だったのか……」  残念ながら、あなたはまだ生きている…… 「レコーダー?」 「よかった、やっとお目覚めですか?」  レザーのアイバンドで片目を隠したルーシーが、笑顔でキルアの顔を覗き込んだ。 「ルーシー……。これはどういうことだ、俺は死んだのではないのか?」 「私は人命救助もできるアーマノイドと言ったはず。様々な応急処置を施すことができます。腕も神経感応型義手に換装しておきました」 「そうだったのか、でも……この家は?」 「ヤーコブの最終戦闘で得た報奨金を全て使わせていただきました。ごめんなさい、ですので一文なしです」 「いいんだ、一からやり直せばいい。何よりルーシー、君がいてくれて安心した。また稼いで、いつか君のその傷も……」 「いえ、これはあなたのブライドである証として、このままにしておきます」 「ありがとう……。そしてレコーダー、これまで苦難を共にしてくれた君にも感謝している。これからもよろしく」  いや、私の役割は終了した。  記録すべき戦歴はもう何もない。  後の記録係はルーシーにまかせるとしよう。  キルアの事をよろしく。  レコーディングオフ——
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