戦場のブライド

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 スリットスペースを抜けると、青く輝く惑星が見えてきた――ヤーコブ、海に囲まれた緑の惑星。資源も豊富で地球に非常に似た環境が備わっており、長い期間、領地争いが繰り返されていた。 「懐かしいな……。できればここを最後の戦場にしたい」  キルアには密かな夢がある。質素でよいから小さな家を持ち、家庭を築いて穏やかに暮らすこと。ある程度の金銭が貯まったところで、傭兵を引退しようと考えていた。 「レコーダー、俺の心理描写は必要ないだろう?」  普段の独り言をリピートしただけである。兵士の心理状態を正確に把握するのも私の役割だ。  大気圏に突入すると、輸送機は風にそよぐ白い雲に覆われ、雲の隙間から豊穣なる緑の大地が望めた。  雲を抜けるとやがて灰色の滑走路が見えてくる。  輸送機は逆噴射で垂直降下すると着地用スキッドを露出し、滑走路に着陸した。  傭兵達がぞろぞろと降り立つと軍曹が待機しており、すぐに出撃命令が通達された。 「ここでの戦況はすでに渡してあるデータ通り、最終局面を迎えている。ここでの戦いに勝利すれば、ヤーコブでの戦闘は終局を迎えることができる。報酬も弾むので、諸君らの活躍に期待する」  キルアはレティナディスプレイに表示された報奨金の額に浮足立った。  すぐに傭兵達は二人乗りリニア(超伝導)バイクに乗り込むと、最前線に向けて出発した。 「ここで戦果を上げれば、俺の傭兵生活も終わりを告げることができる……」  残念ながら生存率20%とかなり低い確率だ。キルアは無謀な賭けに挑もうとしていることに気づいていなかった。 「黙れ、その確率を上げるためにブライドを購入したんだ」  しかしルーシーの戦闘能力は未知数。確率を上げる因子とはなりえない。
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