楽しい楽しい追いかけっこ

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有坂龍一は完璧な男だ。 眉目秀麗、頭脳明晰。 引退を宣言しているくせに、現役の誰よりも難しい仕事をこなす。 だけど、唯一欠点をあげるとすれば、その口から気まぐれに放たれるオヤジギャグだ。 まさか、それこそ笑えない冗談みたいだが、本当だ。 思いがけず、体感してしまった。 これは、ひどい。 寒すぎてとても聞いていられない。 当然、オヤジギャグが拷問なはずもなく、龍一は即座に表情を引き締めてきた。 「お前が持ってる?」 寒いギャグだけのせいではなく、周囲の気温が1,2度下がったような気がする。 放っているのは、もちろん龍一。 「お前がパンツを持っているのか?」 周囲の温度さえ変えてしまう殺気をまとって、龍一はゆっくりと顔をあげて、感情の見えない眼差しでライを見る。 左手をゆっくりと差し出してきた。 「では、盗んだものを返してもらおうか」 当然のことを言っている。 だが、いつの間にか、龍一の右腕が上着の懐に入っているのを見た。 そこに握られているのは、きっと龍一の愛銃だ。 殺される。 全身が粟立つような予感に震えて、ライは、その場から一目散に逃げ出した。
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