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怪訝に首を傾げるライに、龍一は早く行けと言わんばかりの、苛立たしげな目配せを寄越した。
ヒヤッと一瞬、肝を冷やしたが、冷静に考えれば、ライは有坂龍一の自宅を警護する、いわば仲間だ。
追いかけられることも、殺されることも、本来なら、ありえない。
だったらなぜ、自分はあんなにも必死こいて逃げてしまったのだろう。
だって龍一が怖かった……。
本能に従った自分を、今は正しいと思うしかない。
その時、発砲音がしてアルミの荷台を打ち抜く衝撃が襲った。
背後からの敵が撃ってきた!
そして正面の龍一も、懐から愛銃を抜き出すのを見た。
まもなくこの場は戦場になる。
ライはアクセルを一気に底まで踏み込み、軽トラックの脇をすり抜ける。
すれ違う瞬間、軽トラックの助手席にいたはずの介抱スリの男が、荷台に転がされているのを見た。
荷物のようにぐるぐる巻きに縛られている。
これからあいつは、銃撃戦のただ中、ヘルメットひとつなく、生身の体ひとつで放置されるのだ。
有坂龍一を怒らせた報いとはいえ、スリの男に少し同情の念を抱いてしまった。
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