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やがて、銃声はやみ、ヘリコプターは空の彼方に飛び去っていった。
車内で突っ伏していた男たちは、ようやく、ゆっくりと頭を上げる。
自分が生き残っていることが、どこか信じられない気持ちだ。
しかし、顔をあげた男たちの目に入ってきたのは、龍一が乗った軽トラックだ。
なんの防御もほどこしていないはずの軽トラックは、まだのほほんとそこにいた。
そして、その運転席にいるのは、有坂龍一。
いま、彼の正確無比なベレッタで狙われたら、全員ひとたまりもないだろう。
男たちは恐怖に目を見開いた。
だが、有坂龍一は微笑んだ。
不敵な笑みでも、余裕の笑みでもなく、優雅にあでやかに微笑んでみせた。
……性格が悪い。
相対した敵を恐怖のどん底に叩き込んでおきながら、向けてきたのは見惚れるほど完璧な微笑み。
ただ、ただ、性格が悪いとしか言いようがない。
あれはもう、悪魔だ。
そして、軽トラックに乗った悪魔は、相対した敵の心に、深い深い恐怖を刻みつけた。
結局龍一は、銃を抜くこともなく、ハンドルを切り返して悠然と去っていった。
軽トラックのマフラーが吐き出す煙と、農道こそが似合う、そののどかなシルエットが、ズタボロの高級車との対比で、まるでコメディのようだった。
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