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「もう、龍一ってば、びっくりしたじゃない」
いきなり頭につけられたイヤーマフを外しながら、美百合は頬をふくらませる。
「ヘリを呼んでるんなら、最初から教えてくれれば良かったのよ」
龍一は、命の危機から逃げおおせたのに、叱られるのは心外だと、視線だけを美百合に流す。
「教えてどうなる? タクシー代わりにしても、いつものデパートには降りてはくれないぞ」
そして、あいかわらずの意地悪を言う龍一に、美百合はツンと顎をあげた。
「タクシー代わりになんかしないわよ。救急車代わりよ」
「救急車?」
すり傷ひとつ負わせていないはずだと怪訝に眉をひそめる龍一に、
「そう!」
美百合は元気に荷台を振り返った。
「あの人を運んでもらうのに、ちょうどいいと思って」
だけどすぐに、
「あら大変!」
と顔色を変えた。
「あの人、うずくまっちゃってる。きっと具合が悪くなっちゃったんだわ」
美百合の言葉に、龍一はふんと鼻を鳴らした。
もともと、スリの男の病気は、ライがついただけのウソだ。
本当に病気のわけじゃない。
それなのにうずくまったまま動かないのは、ヘリからのガトリング掃射なんて予想していなかったからだろう。
ただ恐怖にすくみ上がっているだけだ。
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