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降ってわいたように現れたライに、美百合は少し驚いたようだが、
「あ、良かった。お連れさんがいたんだ」
とホッとした顔をしてくれた。
そして、
「この人、どうしたんですか?」
と心配そうに聞いてくれる。
『いい子だ』
と内心ライは意外に思う。
あの有坂龍一に、それこそ宝物のように大切に慈しまれているのに、それにおごるような、尊大な態度をとらない。
龍一なら、虫をみるような目で人を見る。
いや、関係のない人間なら、それこそ視界の端にもいれない。
そんな有坂龍一の妻なのに、見ず知らずの他人を思いやる心があるのかと、ちょっと感心していた。
でもこの場合、無視してくれた方は良かった。
なにせ相手は、介抱スリだ。
美百合に被害がなくて良かったと胸をなでおろしながら、
「いつものことなのでたいしたことはないのです」
と答えた。
スリの手が懲りた様子もなくライのポケットにも伸びてくる。
その手を、美百合に見えない位置でひねりあげる。
「後は私が見ますので大丈夫ですよ」
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