ライの逃亡

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胸の中でこっそりと舌打ちしながら、 「いえいえ、実はホテルではなく、この近くのお医者さまが、彼の病気の権威なんですよ。ですから、こうやってわざわざ来日してきたんです。彼に診察してもらうから大丈夫なんですーー」 取り繕おうとするが、 「病院は50キロ先だよ」 また美百合に怪訝に言われてしまう。 またもや、忘れていた。 この辺りは辺境と呼んでいいくらい、何も無いのだ。 それにさっき美百合から、この辺りに病院はないと忠告されたばかりたった。 失言を重ねてしまった。 任務初日で緊張していたとはいえ、考えられない失態だ。 まずい。 ここから挽回するためには……。 ライはバッと勢いよく顔をあげた。 そして、 「ワターシ」 大仰な身振りを加えて叫ぶ。 「ニホンゴ、ワカリマセーン!」 ついさっきまで、流ちょうな日本語で美百合と会話していた。 それなのにこの言い訳。 苦しい、苦しすぎる。 いくらなんでも、ひどすぎるとは思うが、他に何も思いつかなかったのだから仕方がない。
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