ライの逃亡

7/12

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「……」 美百合は、枝にとまった小鳥のように小首を傾げている。 「……」 ライも、もう何も言えない。 この、気まずい沈黙の時間が、つらい。 そして、ついに耐えられなくなったライは、 「コレデ、シツレイシマース」 スリの男を小脇に抱え込むと、ダッシュでその場から逃げ出した。 ライは小柄で細身だ。 外国人の大男を担ぎ上げられるはずなんかないのに、ここは火事場のクソ力なのか、重さを感じさせない動きで走る。 足も羽根がはえたようだ。 このまま逃げ切れるか。 美百合は、 「あ、待って」 と声をかけて、後から追いかけてきた。 加えて、 「いま家に電話して、車を出してもらうから待ってよー」 なんて言う。 有坂家に電話して出てくるなんて、有坂龍一しかいない。 彼が乗り出しくる、なんてことになったら、それこそ目も当てられない。 こうなったら、意地でも、逃げ切るしかない。 いや、逃げなければ、ライは終わりだ。 見事109番目のクビを言い渡される。 獣道のような小道に体を滑り込ませ、生け垣をジャンプして乗り越えた。 拘束したままの外国人が、生け垣に顔を引っかいて悲鳴をあげるが、そんなの知ったことじゃない。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加