10人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「……」
美百合は、枝にとまった小鳥のように小首を傾げている。
「……」
ライも、もう何も言えない。
この、気まずい沈黙の時間が、つらい。
そして、ついに耐えられなくなったライは、
「コレデ、シツレイシマース」
スリの男を小脇に抱え込むと、ダッシュでその場から逃げ出した。
ライは小柄で細身だ。
外国人の大男を担ぎ上げられるはずなんかないのに、ここは火事場のクソ力なのか、重さを感じさせない動きで走る。
足も羽根がはえたようだ。
このまま逃げ切れるか。
美百合は、
「あ、待って」
と声をかけて、後から追いかけてきた。
加えて、
「いま家に電話して、車を出してもらうから待ってよー」
なんて言う。
有坂家に電話して出てくるなんて、有坂龍一しかいない。
彼が乗り出しくる、なんてことになったら、それこそ目も当てられない。
こうなったら、意地でも、逃げ切るしかない。
いや、逃げなければ、ライは終わりだ。
見事109番目のクビを言い渡される。
獣道のような小道に体を滑り込ませ、生け垣をジャンプして乗り越えた。
拘束したままの外国人が、生け垣に顔を引っかいて悲鳴をあげるが、そんなの知ったことじゃない。
最初のコメントを投稿しよう!