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アブノーマル・アイデンティティ
「うおおー! ダメだ最悪。なんっっも思い浮かばねえ!」
我らが姫宮蒼苺氏は書斎という名のゴミ溜め場で頭を抱えて唸っていた。
かれこれ四、五時間はそうしているが、肝心の筆は一向に進まぬと見えて、一行ほど書いては消し書いては消しを繰り返している。
顔に似合わず美少女めいたペンネームを持つ姫宮蒼苺氏は、作家である。
なに、言うて知名度は地の底、編集部からも「え、新人のグラドルか何かですか。は? 男で作家? 売れてからツラ見せろ」などと言われて煙たがられている始末で、これでは万が一職質された時に「自称作家」だの「はいはい無職ね」と言われてしまうのが悩みの種という程度の吹かれなくても飛んでいくような泡沫作家である。
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