アブノーマル・アイデンティティ

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 姫宮氏は大人しくコーヒーを飲み干してちらちらとレジの方を伺いながら「おーっといけない、忘れ物」などと口に出して読みもしないくせに持ち歩いている世界文学全集のシェイクスピアの巻をさっき座っていた席まで取りに戻るなどの工作を行ったが、果たして誰も見てすらいなかった。 「よし、これでインスピレーションばっちり。あの娘をヒロインに据えて。むふ。むふふふふ」  そんなことだから職質の心配をせねばならないのだが、姫宮氏はゆるんだ口元を黒いマスクで覆って帰路についた。  この日も原稿データは白紙のまま、姫宮氏は今日もしっかり九時間の健康的な睡眠時間を確保した。
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