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手〈prologue〉
夜中に目が覚めて彼の手を握るのが好きだった。
起こさないようにそっと指で触れ、しっかり寝入っているのを確かめてその手を弱く握る。
〈この手が僕から離れませんように〉
ささやかな願い。
願わくば、この幸せがずっと続きますようにと願いながらもう一度眠りにつく。
常にあったはずなのに、いつの間にか無くなっていた日常。
僕の隣に居たはずの彼は僕から離れ、ひとり寂しく夜を過ごすのにも慣れてしまった。
待つのは嫌いじゃないけれど、見てしまった事実を見なかったふりするほど大人でもない。
「タイミングが良かったのか悪かったのか…」
そんな呟きは誰にも聞かれる事なく消えていくのだった。
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