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「翔真は莉乃のどこが好きなの?」
「え?あ〜、そうだなぁ」
将からの質問に、少し言葉が詰まった。
莉乃の好きなところなんてたくさんあって、語り始めたら止まらない……。
「一目惚れだった。コロコロ表情が変わる莉乃が可愛いなって思った」
莉乃にはたった数分で心を奪われた。
俺の大切な、大切な、初恋。
「だけど今はそれだけじゃなくて、優しいところや料理が上手いところ、俺の前だけで見せる笑顔も、バイト中の笑顔も、講義を真剣に受ける顔も、寝顔も、泣き顔まで。彼女の全部が好き」
こんなんじゃ語り切れないけど、とりあえず思いついた好きなところを語る。
むしろ莉乃の好きじゃないところを探す方が難しいと思うくらい、全てが好き。
「……俺の知らない莉乃ばっかりだ。まじで勝てる所がみつからないわ」
俺の返答をきいた将は、下を向いてそう呟いた。
「俺、莉乃が好きなんだよね。もうずっと昔から。でも、最悪な形で傷付けてしまった」
将は夜空を見上げて、そう話し始めた。
「莉乃が今回、こうやって弱っていることを知って、不謹慎だけどチャンスだと思った。今度こそ俺が支えたいって」
コーヒーを一口飲んで、話を続ける。
「もし耳が聞こえないままなら、こっちに帰ってくることになる。その時は俺が一番近くで支えたいって、昨日、本人に言った」
将の本気が伝わってきた。本気で莉乃を大切に思っていて、今度こそ大切にしていきたいと思う、そんな強い気持ちが俺にまで伝わってきた。
「…莉乃の答えは?」
だから思わず、気になって聞いてしまった。
「まだ聞いてない。聞くのが怖くて、返事も聞かないで部屋を出てきちゃったんだ」
「そっか……」
莉乃は、なんで答えるのだろうか。
莉乃のずっと前から好きな人の可能性として一番高いのは将だと、今日、こうして話してみて思った。
だとしたら、莉乃は……。将に支えてもらうのが一番の幸せなのではないだろうか。
耳が聞こえるようになっても、ならなくても、莉乃のこの先の未来、隣にいる人間は、やっぱり俺ではないのかもしれない。
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