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「まずは1ヶ月でいいから。もちろんその1ヶ月の間は、誰にも付き合っていることは言わない。1ヶ月で俺のことを好きになってもらえるように頑張るよ。だから、ダメかな?」
「うん。それなら…。」
「やった。チャンスをくれてありがとう。」
付き合っていることを誰にも言わないのなら、もし上手くいかなかったとしても、周りから何かを言われることはない。私たちだけの秘密になるのなら…。
そう思って返事をすると、槙田くんはとても嬉しそうな顔をして抱きしめてきた。
こうして抱きしめられるのは、もうこれで何度目になるのか分からないけれど、槙田くんに抱きしめられるとすごく心地よかった。
「ねえ、二人の時は莉乃って呼んでいい?」
槙田くんに名前で呼ばれるのは、正直、少し照れくさい…。だけどお付き合いをするなら名前で呼んで欲しいかも。
彼の問いに、こくん、と頷く。
「俺のことも名前で呼んでくれる?」
槙田くんは私の返答を聞くと嬉しそうに笑って、少し甘えたような声でそう言った。
「翔真、くん…。」
「うん。今日からよろしくね。莉乃。」
今までゼミが同じというだけの存在だったのに、突然、私の心の中に入ってきた翔真くん。
半年付き合った彼氏に振られた日だというのに涙は一滴も出なかった。
それは紛れもなく、雨の降る公園で翔真くんが助けてくれたからだ。彼のことで頭がいっぱいで、振られたことなんて考える余裕がなかった。
翔真くんがいなかったら、どうなっていたんだろう。雨に濡れたまま家に帰って、一人で寂しく泣いていたかもしれない。
我ながらとてもずるい女だと思う。こうして翔真くんの好意に甘えて、寂しさを紛らわせているんだから…。
この後は、二人でたわいもない話をして、そのまま翔真くんの腕の中で寝てしまった。
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