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タブレットを机に立てかけ、肘を突きながら動画を見ていた。
落ち込んだ気を紛らわそうとバラエティを見ているが、一向に気分がよくなる気配はない。天気が雨というのも相まって、暗い感情が脳裏に宿る。
仮想世界に入れば天気は快晴へと変化するため、きっと多くの生徒たちが学園都市で遊んでいることだろう。雨の日は大体の生徒が仮想世界に篭るのが昨今の傾向だ。
ただ、私はそんなことはしない。
きっと今頃、幸と今平くんは仲良く遊んでいるに違いない。下手に仮想世界に入れば、私はその姿を再び目撃する可能性がある。それだけは何としてでも避けたい。
だからこそ、こうして家にいるのだ。ここであれば、そんなことが起こる心配はないから。
私はバラエティを見つつも、画面右上に書かれた日にちに目をやった。
9月30日。今日は私の誕生日だ。誕生日と言えど、何かおめでたいことが起こるわけではない。強いて言えば、母が帰りに買ってくるケーキくらいだ。
でも、もしかしたら私にとって大切な思い出になってたかもしれなかった。本当なら今日は幸と遊んでいたはずだ。一学期の傾向からして、幸はよくクラスメイトの誕生日を一緒に祝っていた。流石に人の誕生日をむげにはできないので、私も陰ながら参加していた。
クラスメイトに対しても祝うくらいなのだから、きっと親友である私に対しては特別なことをしてくれたはずだ。幸がどんなことをしてくれるのか。一学期の時からずっと楽しみにしていたのだ。
なのに、どうしてこうなってしまったのだろうか。
『ピコンッ』
目の前にあるタブレットから通知音が流れる。画面の上には送り主の名前とメッセージが書かれていた。私はその内容に目を大きくした。驚きを通り越して一体何が起こっているのか分からなかった。
しばらく放心状態だったが、ようやく脳が回りだす。
ひとまず、内容の通りに動こう。心臓の鼓動が早まるのを感じながらも、私は仮想空間に入るための装置に身を投じた。
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