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ブロック・ヒューマン
『おはよう、和紗』
朝のホームルーム。ボーッと教壇後ろのスクリーンを眺めていると人影が挨拶をする。暗喩しているわけではなく、本当に『人影』なのだ。人の姿をした全身真っ黒な人物。人影の前にはゲームで見る『メッセージウィンドウ』が付けられている。
古谷 幸(ふるや さち)と書かれた名前とともに彼女の口にした挨拶が記載されている。私はその人影の言葉に挨拶を返すわけでもなく、横にある窓から外の景色をみた。
周囲を気遣う必要はない。彼らに幸の声は聞こえていない。私に向けられて発された言葉は声にならないようにプログラムされているのだ。
だって、古谷 幸(ふるや さち)は私にとっての『ブロック・ヒューマン』だから。
外は快晴で太陽の日差しが鬱陶しいくらいに照り付けていた。学園都市の中心にあるこの学校から見える景色は最高だった。遠くに見える海が宝石の如く光り輝いている。
全て紛い物なのに、ここまで美しく見えるとは人々の生み出した技術と言うのは凄まじいものだ。
昔の学校は私たちの住む家と同じく『リアル世界』にあったという。しかし、今はメタバースという仮想の空間に作られ、私たちはそこに通っている。規模も大きくなり、一学年のクラス数は二桁にも及ぶ。
学校がメタバースに置き換えられた理由は様々あるという。その中でも大きなものは身体的苦痛からの開放。いじめという概念が強く根付いた今の時代にはせめてもの対処として、身体的暴力の緩和だけは避けておきたいとのことだった。
リアル世界で会うのは学校で仲良くなった本当の友達のみ。私たちは幼い頃からそう教わってきた。そして、自分にとって都合の悪い人間は『ブロック』する。それこそが人生を幸せにする方法である。
だから私は親友である『古谷 幸』をブロックすることにした。
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