出逢い

1/4
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

出逢い

「いっけなーい! 遅刻遅刻!」  転校初日の朝。私はジャムを塗った食パンを咥えながら家を飛び出した。  昨日は不安と興奮で眠れず、寝るのが遅くなってしまったのだ。さすがに初日から遅刻は嫌だが、だからと言って朝食を抜くのは成長期真っ只中の私には辛いのでどこかで見たことのあるような姿で通学路を走り抜けた。  幸い家から学校は徒歩10分程の距離なので、急げば大丈夫な筈。    この角を曲がれば校門が見えてくる。腕時計をちらと確認。始業まであと15分。余裕で着きそう。遅刻しないで済みそうだ。  その前に朝食を食べ終わらせないと。半分ほどなくなった食パンを食べ進めながら角を曲がった瞬間ーー。  ドンッ、と何か大きな物にぶつかった。  衝撃で尻餅をつく。食パンは口に咥えたままだったので無事だ。 「イタタ……」 「ごめん。大丈夫?」  頭上から降ってきた声につられて顔を上げると、そこには同じ学校の制服を着た男子生徒が申し訳なさそうに此方を見下ろしていた。  太陽に照らされてキラキラ光る金髪。長い睫毛に大きな瞳。そしてすっと通った鼻筋と、薄く形の良い唇。男子とは思えない程綺麗な顔立ちだ。  白馬に乗った王子様がリアルに居たらこんな感じなのだろう。 「あの、本当に大丈夫? あ、どこか怪我しちゃった? ごめん、家に忘れ物して慌てていて……立てますか?」  ぼうっと無言で見つめていると、彼は心配そうに手を差し出してきた。  容姿だけではなく中身も良さそう。それに好感を持ちつつ、手を遠慮がちに握り立ち上がった。新品のスカートの汚れを確認し、軽く払う。幸い大して汚れなかったので問題なさそうで内心ホッとする。 「手、ありがとう。怪我は大丈夫。私の方こそ突っ込んじゃってごめんなさい。それより忘れ物取りに行くの間に合いそう?」 「全力疾走すれば多分。怪我が無さそうで良かったです。じゃあ」  此方に手を振った後、彼は背中を向け全力で走り出した。  ーーあと10分ぐらいだけど本当に間に合うのかな?  彼の家はそんなに近いのだろうか。心配しつつ校門をくぐる前に朝食を食べ終え、始業前に無事職員室に到着する事ができた。  優しそうな担任に挨拶をし、一緒に教室へ向かう。 「実はもう1人転校生が居るんだけど来ないのよね……遅刻かしら」  呆れたように小さく溜め息を吐く担任に苦笑い。実は自分も寝坊してギリギリでしたなんてとても言えずにただ後ろをついていく。  今日は夏休みが明けて、ちょうど2学期が始まる日。微妙なタイミングで親の転勤が決まった為仕方なく転校してきたが、他にも仲間が居ることに少しだけ安堵する。  1年とはいえ2学期からだととっくに仲良しグループが出来ているだろうし、そこに入る事が出来るだろうかと不安だった。  転校生が女子ならそのまま友達になれたりするかな? 緊張が少し和らぐ。  プレートに1年5組と表示されている教室に担任と共に入室する。騒がしかった教室が一瞬でシンとし、促されるままに自己紹介。 「仁科莉月(にしなりつ)です。よろしくお願いします」  大勢の視線を感じながら、何とか言葉を紡ぐ。恥ずかしい。早く席に座りたい……。 「窓際の一番後ろが仁科さんの席ね」  担任に言われ、移動して席に着いた時。ガラッと勢いよく教室の扉が開いた。 「すみません! 遅れました!」 「……あ」  思わず声が漏れる。入ってきたのは、つい先程ぶつかった金髪の彼だった。  その端正な顔立ちに、女子たちが色めき立った。そりゃあモテるよね、と心の中で納得する。 「藤堂くん……遅刻した理由は後できちんと説明して貰うけど取り敢えず自己紹介して」 「藤堂律(とうどうりつ)です。よろしくお願いします」  ーーん?  聞きなれた音に思わず身体が反応する。私と名前が同じ。  今朝たまたまぶつかって、その人が同じクラスの転校生で。更に同じ名前だなんて、そんな偶然ある?
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!