出逢い

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「席は窓際から2列目の1番後ろよ。君は昼休み職員室ね。じゃあHR始めるわよー」  なんと席も隣同士。流石にここまでくると運命じゃないかと思ってしまう。  藤堂くんが着席したのを確認した後、担任は今日の連絡を一通りし、更にこれから始業式だからと体育館へ行くよう指示を出した。  皆席を立ち各々行く準備をし始める。 「君、朝ぶつかった子だよね?」  私もそれに習って席から立つと、彼が座ったまま此方を見上げた。  あ、覚えててくれた。ついさっきのことだし当たり前かもしれないが、顔をちゃんと記憶してくれていた事が地味に嬉しい。 「そうだよ。まさかもう1人の転校生が君だとは思わなかったよ。さっきは本当にごめんね……結局遅刻しちゃったし」 「いやいや、正直あの時間じゃどっちみち遅刻だっただろうから気にしないで。謝るとしたら俺の方だよ。吹っ飛ばしちゃって本当にごめん」 「それは私だって走ってたのが悪いし。てかずっと謝罪合戦してるね、私達」 「確かに。じゃあそろそろ終わりにしよう。君も転校生なんだね? 仲直りと、これからよろしくってことで握手だ」 「うん、よろしくね」  軽く握手を交わし、笑い合う。優しくて話しやすいな。正直男子は苦手な方だったけど、この人とは仲良くなれそう。 「ところで君の名前は?」  そう言えば私の自己紹介の時に彼は居なかったんだ。  同じ名前だと知ったらどんな反応をするんだろう。様子を窺いながら口を開く。 「えっと、仁科莉月です」 「え? ”りつ“?」  大きな瞳を更に大きくして驚いた様子の彼に微笑みかけ、こくんと頷いて見せる。 「同じ名前みたいだね。藤堂くんの自己紹介聞いて、びっくりしちゃった」 「俺らすごくない? 朝出会ったかと思えば同じクラスで、2人して転校生で席も隣で名前も一緒? ……運命?」  藤堂くんは照れくさそうにそう言って柔らかい笑みを浮かべた。  その素敵な笑顔に鼓動が速まるのを感じる。こんなかっこいい人に笑顔付きでそんなこと言われたらドキドキするに決まってるじゃん。  顔に熱が集まっていくのが分かる。真っ赤であろう頬を隠すようにそっぽを向いた。 「本当、すごい偶然だよね。あ、それより体育館行こっか。始業式始まっちゃう」  あまりの恥ずかしさに話を逸らし、ゆっくり移動を始めているクラスメイト達の後をついて行こうと歩みを進める。 「そうだったね」  それに習うように藤堂くんも席を立ち、一緒に廊下へ出た。並んで歩くが何だか気恥ずかしい。こんなにかっこいい人の隣を歩いても良いんだろうか。  前を歩く女子達がこそこそと話しながら此方の様子を時折確認している。転校生同士が仲良くしているのが気に食わないのか、はたまた彼のかっこよさに夢中になっているのか。私的には後者だとは思うが、変な誤解を生むと友達ゼロ確定してしまいそうなのですっと彼よりも後ろを歩くことにした。 「どうかした?」  そんな私にすぐに気づく彼。わざわざ足を止めて私の顔を覗き込んできた。  髪と同じくキラキラの金の瞳に見つめられ、思わず後退る。 「あー……私と噂になったら藤堂くんに申し訳ないなって」  正直に言うと、藤堂くんは少しだけ不機嫌そうに唇を尖らせた。 「……そんな理由? 俺りっちゃんとなら別に良いんだけど」 「りっちゃん!?」 「あだ名! りっちゃん可愛いからすごく合ってるなって。駄目かな?」 「だ、駄目じゃないけど」 「けど?」  何度も後退ったせいかいつの間にか壁際まで追い詰められており、ついに背中が壁に当たった。背中に一筋の汗が流れる。  目の前には整った顔。私の顔の真横に彼の骨ばった手が置かれ、完全に逃げ場がなくなった。    ーーこれが噂の壁ドンてやつ?  こんなことされたのは人生で初めてだ。鼓動の音が彼にも聞こえてしまいそう。 「と、藤堂くん」 「律」 「え?」 「律って呼んで。呼んでくれるまで退いてあげない」  ただでさえ甘いマスクにヤられているのに、それ以上にドキドキする事を言われて顔が真っ赤になっているのが自分でも分かる。正直心臓がもたない。 「律、くん。退いて欲しいです……」  恥ずかしさで死にそうになりながら、なんとか声を絞り出す。男子の下の名前を呼ぶなんて今までなかった為、余計に緊張してしまう。初恋すらまだの私には物凄くハードルが高い。 「いいよ。意地悪してごめんね」  すんなり退いてくれた事に安堵しつつ、大丈夫だよ、と一言返す。  いつの間にか前を歩いていたクラスメイト達は姿を消していた。もう体育館に行ってしまったらしい。  どうしよう。困った事に私は体育館の場所を知らない。 「とう……律くんは体育館の場所分かる?」  期待は薄いが一応聞いてみる。すると、律くんは静かに首を横に振って否定した後、耳元に顔を近づけて来た。 「ね、このまま学校抜けない?」 「え?」 「俺、りっちゃんの事もっと知りたいな」  低音の心地良い声で、甘く囁かれた言葉。  こんな事されたら、大抵の女子は一緒に学校を飛び出してついて行ってしまうだろう。    ーー私以外は、ね。  熱の上がった瞳に見つめられるが、私の心は正反対に急激に冷めていった。 「アホか。サボりたいなら1人でサボれ」 「……へ?」  予想外の言葉だったらしく、藤堂くんの表情は固まっている。どれだけ今までイージーモードだったのだろう。そこら辺の尻軽女と一緒にしないで欲しい。 「私不真面目な人嫌いなんだよね。最初だから猫被ってたけど、流石に我慢できなかったわ。じゃーね、また明日」  呆然と立ち尽くす彼に軽く手を振り、踵を返す。  始業式、もう始まってるかな。まだだとしても体育館探している間に始まっちゃうだろうなぁ。目立ちたくないから、なるべく気づかれないように入ろう。    色々考えながら早足で歩いている私の耳に、藤堂くんの笑い声が聞こえてきた。  気でも狂ったのだろうか。 「ハハハッ……おもしれー女」 「ん?」  あれ、なんか急に口調が変わったような。
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