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君との出会い
毎日、ひたすら朝から晩まで働いて、日付が変わる頃に帰宅をし、シャワーを浴びてベッドで眠るという繰り返し。
真っ暗な部屋のドアを開ければ、どっと疲れが押し寄せてくる。
だからといって癒してくれる特定の相手がいるわけでもないから、人恋しくなれば俺はある店の扉を開く。
そこは一見、普通のBARに見えるけれど、一歩足を踏み入れれば、一瞬で空気が変わる。
あえて仕事終わりのスーツで行くのには、ちゃんとした理由がある。それは、私服よりも遥かに成功率が高いからだ。
会社でそれなりのポジションを任されていることもあり、何着か買い揃えてある高級ブランドのスーツに身を纏えば、店の中を歩くだけで熱い視線が注がれる。
週末の金曜の夜、むしゃくしゃしていた俺は、仕事帰りに行きつけのBARへ立ち寄った。
「いらっしゃいませ」
いつものように店の中へ入っていくと、店員の声を聞き流すようにゆっくりと進んでいく中に、一際目を惹かれる美人な男を見つけた。
他の奴らはうんざりするほどの視線を向けてくるのに、そいつは視線を下げたままただ一点を見つめていて、普段は自分から声をかけることはしないのに、俺はそいつへと近づいていく。
「こんばんは」
「こんばんは」
「君、見ない顔だね」
「今日が初めてなんで……」
「だったら、初めては俺とどう?」
その問いかけにそいつは黙って立ち上がると、さほど変わらない身長差で俺の隣に並んだ。
「学生?」
「はい」
歳の差はゆうに十は違うであろう大学生に、気がつけば腕を伸ばし腰に回していた。
――ねえ、お前はどんな声で喘くの?――
想像するだけで駆り立てられるこの気持ちを、全て受け止めさせたい――そう思った。
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