初めては俺と……

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 頭を洗い終わると、一呼吸してそっとシャワールームのドアを開けた。 「入っておいで」 「はい」  すぐにドアを閉めて彼が入ってくるのを待っていると、しばらくしてそおっとドアが開く気配がした。  振り向くことはせず前を向いたまま泡のボディーソープを後ろ手に差し出すと、それを静かに受け取り浴槽の淵に置きプッシュしている。 「両手で泡立てたら、背中洗ってもらっていい?」 「はい」  壁にかかっているシャワーに手を添えながら待っていると、肩甲骨辺りの真ん中にふわりと泡が乗せられ、柔らかくも男っぽさのある指が遠慮がちに触れてくる。  別に何か指示をするわけでもなく、背中を行ったりきたりする手の動きを肌に感じながら、目を閉じていた――。 「あの……、こんな感じで大丈夫ですか?」 「大丈夫。そのまま続けてくれればいいよ」 「はい」  こんな風に誰かに背中を洗ってもらうなんてことはもう何年もあるわけがなくて、正直自分でもこの後どうすればいいのかわからなくなっていた。 「あのさ、向き合うのは恥ずかしい?」 「恥ずかしいですけど……香川さんがそうしたいなら、俺はいいですよ」 「じゃあ、振り返るね」 「はい」  高まる心臓を抑えながらゆっくりと体を回転させると、その先にはうす橙色の素肌を顕にした彼の姿があった。  それなりに鍛えられている中肉中背の引き締まった体は、それでも自分よりは細くて、だけど思ったより男らしさもあって、服を着ていた時よりもさらに掻き立てられるものがある。 「なんか……やっぱ恥ずかしいかも……」  しっかりと向き合えば、自然とお互いの顔も身体も視界の中に入り込んでくるわけで――恥ずかしそうに顔を斜めに逸らす頬がほんのりと赤くなっていることに気づけば、その頬に自然と腕を伸ばしている自分がいた。 「か、がわ……さん?」 「あっ、ごめん……」  名前を呼ばれてふと現実に引き戻されると、驚かそうと思ったわけでも、先を急いでいたわけでもなかったのに、自分の取っていた行動に慌てて伸ばしていた手を引こうとしたら、その手をきゅっと掴まれる。  驚いて顔を上げれば、さっきまでとは違い、真っ直ぐに視線がかち合っていて、胸の奥がどくんとなったのを感じた。 「キス……していい?」  その唇に触れたいと思った――俊輔の問いかけに絢斗が首を縦に動かすと、二人の距離がなくなり唇がそっと触れる。  一度離れた唇は、またすぐにどちらかともなく近づいて、気がつけば絢斗の頬を両手で包み込み、求めるように何度も角度を変えながらキスを交わす。 「んっ、はぁっ……か、がわさん……くるしっ」  夢中になりすぎて息をすることを忘れてしまうほどで、絢斗が肩を震わせながらもたれかかってくるのを右腕で受け止めた。 「ごめん……でも、もう止まんないかも……」  そう言って、今度はそっとおでこにキスを落とす。 「キスって、こんなにも……ドキドキ、するんですね」 「ドキドキしたの?」 「胸が苦しいくらいに……」  言うことがいちいち可愛くて、思いっきり抱きしめたい気持ちを抑えながら「今度は俺が洗うよ」と言えば、素直に「お願いします」と返ってきた。  さっき渡したボディーソープを自分の手にプッシュして泡立てると、肩甲骨あたりに泡を乗せて広げていく。
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