崇高な存在

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 その日、男はいつになく疲れていた。職場で上司に与えられた指示を理解できず、フロイントに助けを求めているのがバレてしまったのだ。   「何でもかんでもAIに聞かなきゃ仕事ができないのか!?AIを使うなとは言わん。だが、その前に自分の頭で考えろ。『人間は考える葦である』って言葉、知ってるだろう。人間は葦のように弱い存在ではあるが、考えるという偉大な力を与えられている事で崇高な存在となる。今のお前はただの葦だ。このままじゃ、困難に屈してばかりの人生だぞ」    帰宅後ベッドに横になり、上司の説教を思い出す。ただの葦だって何だっていい。考える事のない楽な生活を送りたい。上司の鬼のような形相を思い浮かべながら、男は無意識にフロイントに話しかけていた。   「フロイント、仕事に行きたくないんだけどどうしたらいい?職場が臨時休業になる方法を教えて」  どんな質問にも、フロイントは真面目に答えてくれる。   「これまで職場が臨時休業になった例として、台風や大雪などの自然災害。感染症の爆発的流行などがあります」   「すぐ休みたいんだよ!自然災害も感染症の流行もすぐには起こらないだろう。他には?」 「稀に、爆破予告の為に臨時休業となった事例もあります」    男はムクッと起き上がった。その顔は、最高の答えを得た喜びに満ちていた。この男、自分で考える能力が無いばかりか、先を予測する力も欠如していた。
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