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彼、朝比奈圭吾(あさひなけいご)は、彼は私の幼なじみだ。
ほんのり茶色がかった黒い髪は、耳にかからずきっちりと切りそろえられていて清潔感がある。一方で、ほどよい厚みの唇には三十三歳という年齢に見合った大人の色香がにじみ出ていた。
均一な幅の二重まぶたが縁取る大きなアーモンドアイ。額から鼻先までのカーブ。
造形美というのはこういうことを言うのかと思えるほど完璧な顔立ちに、一八五センチの長身の彼は、当然ながら昔から周囲の人気の的だった。
私も例に漏れずその内のひとりで、幼なじみというだけで他の人より近くにいるような気がしていたけれど、結局〝身内枠〟を破ることはないのだと大きくなるにつれて悟った。
それなのに、まさかこんなことになるなんて――。
黒羽二重の羽織袴を凛と着こなす彼の隣で、何度『これは本当に現実なのか』と自問したことか。神主が朗々と詠みあげる祝詞の中身なんてまったく覚えていない。
そばまでやって来た彼が、ベッドに正座している私へと手を伸ばす。無意識にビクリと肩が跳ねる。次の瞬間、額にペタリと手のひらを当てられた。
「熱は……ないな」
「え?」
思わずぽかんとする。輪郭を確かめるようにゆっくりと下りてきた手が頬を包む。
「顔が赤いから、疲れで熱でも出たのかと思った」
親指の腹でスリスリと撫でられ、じわりと頬が熱くなる。彼より先に入浴を済ませている私の顔が赤い理由なんてひとつしかない。
彼を待っている間、これから自分に起こるであろうことを考えないなんてどうやったって無理だった。なまじ〝途中経過〟を知ってしまったせいで、やけに生々しく想像してしまうのだ。
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