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彼はクスリと笑い、首をかしげてこちらをのぞき込んできた。
「それともこれからのこと想像してた、とか?」
カッと顔が上気する。
「お、温泉効果でしょ」
「ああ、そういえば温泉の効用にあったな、血行促進」
コクコクと首を振ると、彼が楽しげに口の端を持ち上げる。
「子授けにもいいらしい」
「こさっ!」
両目を見張った瞬間、両肩を押された。
ゆっくりと視界が傾いていく。思わずぎゅっと目をつぶった直後、背中がマットレスに沈んだ。
彼の次の行動に身構えてまぶたを固く閉じたままじっとしているが、何も起こらない。どこにも触れらていないどころか、衣擦れひとつしない。
もしかして〝また〟からかわれたの? まさかこんなときまで?
恐る恐るまぶたを開けると、予想外に真面目な顔つきで彼がこちらを見下ろしていた。
「圭吾お兄――」
人差し指が唇に押し当てられる。
「〝お兄ちゃん〟は卒業だろ?」
「……っ!」
あの羽織袴のいったいどこに隠していたのかと問いたくなるほどの色香に、くらくらと酩酊しそうになる。
「さあ、あの夜の続きを始めようか」
濡れた髪をかき上げながら、彼は見たことがないほど妖艶な笑みを浮かべた。
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