3.あの頃と同じこと、違うこと。***

13/26
9278人が本棚に入れています
本棚に追加
/199ページ
「できたら早く孫の顔も見せてやりたい」 「孫!」 「だからさっきのお見合いの条件の中には、〝子作り〟も含まれている。贅沢を言うなら、前もって相性を確かめたいところだけど」 「前もって……」 「ああ。セックーー」 「わっ、わかったから!」  反射的に体を乗り出し、彼の口を両手で塞いだ。一瞬目を見張った彼は、弓なりに目を細めた後、私の手首をつかんでグイっと引いた。 「きゃっ」  体勢を崩して彼の胸に飛び込むような形でひざの上に乗り上げた。 「ちょっ……お兄ちゃん!」  目を尖らせて顔を上げたら、思ったより近くで目が合った。これまで見たことのない妖艶な笑みに息をのむ。 「折角だから確かめてみるか?」 「なっ」  ぼっと火が着いたように一瞬で顔が熱くなる。 「お互いにその気になるかならないか。無理なら無理と早いうちに言った方がいいぞ」 「むっ、理なんかじゃないわ」 「ふーん」  彼は見透かすように微笑むと、私の頬にすっと手を差し込んだ。背中がびくりと跳ねる。そんな私に彼はくつくつと肩を揺らして笑う。 「大丈夫か?」 「大丈夫だってば!」 「じゃあ遠慮なく」  ゆっくりと近づいてくる端正な顔に、心臓の音がドキドキと加速していく。ぎゅっと目を閉じてすぐ、額に柔らかなものが押し当てられた。
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!