3.あの頃と同じこと、違うこと。***

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「きゃっ」  乾いた手のひらに背筋をたどられ、体をのけぞらせたが逆効果だったかもしれない。反り返った喉元に唇を寄せられ、上下唇で軽く挟まれながら吸いつかれる。 「んやっ」  彼の胸を両手で押し返すがびくともしない。それどころか反対に押されてソファーに仰向けに倒れ込んだ。 「あ……っ」  真上からじっと見つめられる。瞳の奥にこれまで向けられたことのない熱が見え隠れする。鼓動が早鐘を打ち、頭が真っ白になる。 「ちゃんとわかったか?」 「え、あ……え」  意味を瞬時に理解できない。考えようと思うのに頭がうまく働かないのだ。彼はそれをわかったかのように妖艶な笑みを浮かべる。 「男としての俺は合格?」  本当だったら迷わず肯定すべきところだ。けれど首を縦に振るのをためらった。なんとなく癪だったのだ。キスでいいように翻弄された後でうなずけば、簡単に堕ちる女だと思われてしまう。  そもそもこんなテスト、私には必要ないのに。そう思ったらむくむくと反抗心が湧き上がった。 「そういう圭吾お兄ちゃんこそどうなの? 変な同情なんて要らないから正直に答えてよ」  だめならだめだといっそはっきり言ってほしい。その方がスッパリと諦めもつくだろう。淡い初恋の残骸をシンガポールの海に捨ててしまうのも手かもしれない。  覚悟を決めて見上げたら、彼が答えづらそうに視線をさ迷わせた。  やっぱりだめなんだ……。  あんなに官能的なキスを交わしても、彼の中の私は〝妹〟から脱却できないのだ。そう考えたら幼なじみという関係すらむなしくなってくる。
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