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二十八歳独身の自分にとって決して安いとは言えない出費だったけれど、たまのご褒美くらい奮発してもバチは当たらないはずだ。入省してから十年もの間、仕事ひと筋でがんばってきたのだ。
高卒採用で一般職の私は、いわゆる大学出の総合職エリート外交官達の足元にも及ばないかもしれないけれど、それでも誇りを持って日々職務に当たっている。大変なことも多いがそれ以上にやりがいがある。自分の働きが自国の未来の一端を担っていることに誇りを持っているのだ。
仕事柄ひとりで海外旅行をすることへのハードルは低いが、突発的に旅に出たのは今回が初めてだった。その原因を思い出し、胸に苦いものが広がった。
「最っ低……」
はあと大きなため息をついて、プールの縁に乗せた手に額をこつんとぶつける。
せっかくこんな素敵なところに来てまで思い出してしまうなんて……。
つい数日前のこと。数年ひそかに温め続けていた恋心が木っ端みじんに砕け散った。
それだけなら突発的に旅に出ようなんて思わなかったかもしれない。失恋以上に、自分がやらかした見当違いな言動があまりに恥ずかしくて情けなくて、後悔の渦に飲み込まれた。できることなら地球の裏側まで届くほど深い穴に埋まってしまいたかったけれど、それは不可能だ。それならせめて――と旅行を思い立ったのである。
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