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黙っていると、彼は「はあ」と思いきり大きな息をついて上体を起こした。落ちているTシャツを拾って袖を通す姿に、続きがないことを悟る。
思った通りだ。彼は〝お試し〟なんて軽い気持ちで処女に手を出すような人ではない。私のことを経験豊富だと思っていたのだ。
胸がズキズキと痛んで、さっきまでとは違う涙が込み上げてくる。きゅっと下唇を噛みしめると、パサリとなにかが掛けられた。彼のジャケットだ。そういえば、彼が座るときにソファーの背に掛けていた。
のそのそと起き上がって袖を通したら、再度深いため息をつかれる。
そんなに処女はだめだったの? たしかに言わなかったことは問題があるかもしれないけれど、二度も大きなため息をつかれるほどのことだろうか。処女だろうとなかろうと、やることは一緒なのに。
なんだか無性にむかむかしてきた。
「そっちだって言わなかったじゃない」
思いのほか低い声が出た。
「処女は対象外だなんて聞いてないわ」
「いや、そういうことじゃなくて」
「いいじゃない別に。この年で処女のなにが悪いの? 永遠を誓ったその夜に初めてを捧げたいって思うのはそんなにダメなこと⁉ どいつもこいつもあり得ないだの古臭いだのって……」
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