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彼は押し黙った。
ああ、やっぱり。きっと『残念だけど』と断られるのだ。これまでの経験則からいくと〝良心的な〟男性からは『赤い糸の相手が見つかるといいね』というお祈りメールじみた文言をいただくのだ。
「わかった」
はっきりとした口調に強い意思を感じた。
続く言葉を予測し、手をぐっと握り締める。
「進めようか」
ほらやっぱり。
――え?
「どうした、そんなハトが豆鉄砲食らったような顔をして。嫌なのか?」
「い、嫌じゃないわ!」
頭を勢いよく振ったら、ポンっと大きな手が乗せられた。それだけでドキドキと鼓動が加速していく。いよいよ私も初めてを経験するのだと思ったら、一気に緊張感が増してきた。そんな私に気づいた様子もなく、彼はアハハと無邪気に笑う。
「そんなに振ったら首がちぎれるぞ」
頭を撫でられ、胸が甘やかに疼いた。相変わらず爽やかな笑顔はもはや反則級だ。なにをされても許してしまいそうな気がする。
「そうと決まればさっさとそうなれるようにしないとな」
いよいよだ。そう思ってゴクリと喉を鳴らした私に、彼は蠱惑的な笑みをくれる。
「続きはあとのお楽しみ、だな」
「は?」
「なるべく早く初夜を迎えられるようにするぞ」
え!
「進めるって……さっきの続きを、ってことじゃなくて……」
「ん? ああ、結婚話のことだけど」
「ええ!」
驚きの声を上げた私に、彼は口の両端をキュッと持ち上げた。
「おまえの夢、俺が叶えてやるよ」
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