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4.あの夜の続き***
「さあ、あの夜の続きを始めようか」
彼が濡れた髪をかき上げながら二重まぶたを細める。匂い立つほどの色香に息が止まりそうだ。
『おまえの夢、俺が叶えてやるよ』
シンガポールでの再会の夜にそう言った彼は、帰国後、宣言通り驚くべきスピードで結婚話を進めた。
再会からふた月足らずで婚礼を挙げられたのは、幼なじみという関係性と彼の行動力のたまものだった。
旧知の仲である双方の両親がよく知った子ども達の結婚に諸手を上げて喜び、あれよあれよという間にすべてが決まっていった。
そうして今日、身内のみの婚礼と食事会を無事に終え、夫婦となった私達は都心から少し離れた温泉宿へとやって来た。彼が離れタイプの豪華なスイートルームを用意してくれたのだ。
彼の手が頬に差し込まれる。指の先が耳朶に当たり反射的にビクッと肩をすくめる。ぎゅっと目を閉じたら額に柔らかな感触が当たり、小さなリップ音を立ててすぐに離れた。
「大丈夫。香ちゃんの嫌がるようなことはしない、絶対に」
目を見開くと彼と目が合った。さっきまでの妖艶さはどこへ、というくらい真剣な顔つきだ。
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