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「たとえ夫婦間であっても、同意のない性行為は『強制性交等罪』に当たる。立場上そんなことは絶対にできないし、やりたくもない。嫌がる相手に自分勝手な欲望を押し付けるなんて、男としても人としても最低なことだ。結婚生活は互いを尊重し合えないと成り立たない。そのことは職業柄よくわかっているつもりだよ」
この状態でそんなことを説明されるとは。
だけど言われてみれば確かにその通りだ。ただの幼なじみだった私達は、お互いの都合のために手を組んだ。言うなれば“ご都合婚”なのだ。
恋や愛で結びついた夫婦ではないからこそ、お互いを思いやる気持ちは忘れてはいけない。
こんなときまで優しくて真面目なところは変わらない。どんな関係であっても、彼は私の知っている〝圭吾お兄ちゃん〟なのだ。そう思ったら妙な安心感が湧き上がった。
彼の目を見つめ返しながら大きく頭を縦に振る。
「本当に嫌なことはがまんせずに言うんだぞ」
もう一度うなずくと、彼の表情が和らいだ。
「いい子だ」
彼は一瞬で唇を重ねチュッと音を立てて離れた。あまりの早業に目をしばたたかせていると、彼はクスリと笑って再び口づけてきた。二度三度と音を立てながら啄まれ、じゃれ合うような仕草につられてふふっと小さく笑う。ドキドキと胸の音はうるさいけれど、全然嫌な感じがしない。彼はきっと私の緊張をほぐすためにあえてこんなふうにしているのだ。
初めてのことに不安がないわけじゃない。二十八にもなればそれなりに知識だけはある。そのせいで必要以上に身構えていた。
彼になら身をゆだねられる。
そっとまぶたを下ろすと、待っていたかのように口づけが本格化した。
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