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「はぁー……」
さっきより大きなため息が出た。おいしい食事、素敵な景色、最高のおもてなし。思いきり贅沢をして非日常を味わえば、きっとすぐに忘れられる。そう期待していたのに、現実は甘くない。
再び深いため息をついたとき、後ろから声がした。
「お姉さん、ひとりー?」
反射的に振り向くと、真後ろにふたりの若い男が立っていた。
ひとりは茶髪のソフトモヒカン、もうひとりはサイドを刈り上げて頭頂部の長い髪をお団子にする〝マンバンヘア〟。人を外見で判断してはいけないとは思うけれど、ふたりとも鼻や唇にピアスをつけていて、見るからに軽薄そうだ。
「マジか。結構かわいいじゃん」
「ほらな、俺の言った通りだろ」
いやらしげな笑みを浮かべた彼らはお互いを小突き合う。どうやらナンパのようだ。世界でも治安がよいとされるシンガポールのラグジュアリーホテルだから、女性ひとり旅も安心だと思ったが、これじゃ日本にいるのと変わらない。どこにいても同じような輩はいるらしい。
こっそりため息をついて無言で別の場所へ移動しようとしたが、彼らはしつこくついて来る。
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