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「そんなお化けが出たみたいに驚かなくても」
「急に現れてびっくりしただけよ」
いないと思っていたものが出て来てびっくりするのは、結構同じかもしれない。
「いつの間に帰ってたの?」
「十分くらい前だよ。いつものようにランニングから帰ってそのままシャワーに行ったんだ」
言われてみれば、彼の前髪から今にもしずくが垂れそうになっている。急いで彼の首に掛けられたタオルの端を持って、その場所を拭いた。
「あと少しでできるから、先に髪乾かしてきてね」
タオルから手を放してくるりと前を向いた途端、腰に腕が巻きついた。
「わっ! ちょっ……圭君!」
後ろから抱き着かれて鼓動が一気に加速する。
これでは朝食の準備ができない。『離して』と言おうとしたら、彼が肩の上に額を乗せてきた。
「冷たっ」
濡れた髪が首筋に当たって肩をすくめる。苦情を口にしようとしたとき、彼が背中で深い息をついた。
やっぱり本当は疲れているのね……。
さっきは『どこからあんな体力が』と思ったものの、圭君にも疲労が溜まっているのだ。
私が引っ越してきたことで彼も生活パターンが変わっている。新生活の中で残業や出張が続けば、いつもより体力消費が増えるのも当然だ。
だからあのとき『早く寝た方が』って言ったのに!
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