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すうっと息を吸ってからゆっくりと吐き出す。
「この土日はのんびりしようね」
結婚式を終えた後、新生活に必要なものを買い出しに行ったり実家に顔を出したりと、休みのたびにバタバタしていた。結婚式前も合わせると、予定のない週末は本当に久しぶりかもしれない。
「お休みまであと一日よ。とりあえず朝ごはん食べて今日を乗り越えよう」
肩に乗っている頭をそろえた指先で撫でる。
やっぱり気合を入れて早起きをしてよかった。朝食はご飯と味噌汁と卵焼きだけだけど、パンだけよりは腹持ちがいいはずだ。
「髪、乾かしてきてね。その間に用意しておくから」
あとは玉子焼きを作るだけ。五分あればなんとかなるだろう。
うながすように彼の腕を軽く押すと、難なくほどけた。さてと、とボウルに手を伸ばした瞬間、ひとつにくくった髪をよけるようにして首すじをすうっとなぞられた。
「ひゃっ」
声を上げた拍子にボウルの縁を指がかすめ、カン! とステンレスが音を立てる。持ち上げる直前だったからよかったものの、あぶなく卵液をひっくり返すところだった。
「もうっ、圭君!」
目を怒らせながら振り向いた瞬間、ぎゅっと抱き締められた。固い胸板に勢いよく鼻をぶつけて地味に痛い。
「だめだ……がまんできない」
後頭部のあたりから今にも倒れそうな声が聞こえてきた。
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