5.お弁当とイレギュラー***

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 彼はなにも言わずスタスタと歩いていき、ダイニングテーブルの上に私を下ろすと両腕をテーブルついて自分の上半身で私を閉じ込めた。幸か不幸かテーブルの上にはなにも乗っていない。これから朝食を並べるところだったので当然といえば当然だ。 「あ、あの……」  顔を上げたら熱を帯びた瞳とぶつかった。至近距離から真っすぐに見つめられ、ドキンと胸が跳ね上がる。  なんでスイッチが入ってるの⁉ 「えぇっと……圭君?」  普段の彼は穏やかだ。けれどひとたびスイッチが入ると別人のように濃厚な色香を放つ。獲物を狙う猛獣のような気配すら漂わせるほどだ。  そうなったときの彼から逃れられたことは一度もなく、私はただ激しい熱情に浮かされ、翻弄され続けることになる。 「おっ、お腹減ってるんだよね? 今すぐ朝食にするからそこをのいて……」  私を乗せてもお腹は膨れないからね! そう心の中で叫びながら彼の胸を両手押し返そうとしたら、両手首を握られグッと荷重をかけられた。「あっ」と口にした直後、背中からダイニングテーブルに倒れ込む。  後頭部にさっと彼の手が差し込まれたため、痛い思いはしなかったものの、反転した視界に思考が停止する。自分がダイニングテーブルにあおむけになっていることを理解すると同時に、スカートのすそをたくし上げられた。
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