5.お弁当とイレギュラー***

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 もしかしたら気づかないうちに、なにかやらかしたのだろうか。今頃彼はこの結婚を後悔していたらどうしよう。  はあ、とため息が出た。  あのときのことも彼を止めたい一心で口を突いて出たけれど、彼の職業を考えたらとてもひどい言葉だった。  もう、なんてことを言ってしまったのよ!  時間を巻き戻せるならあの場面からやり直したい。いや、それはそれで困るかも。  どういう状況だったかがよみがえり、顔がじわっと熱くなった。誤魔化すように卵焼きもどきを口に放り込んだら、舌の上に苦みが広がる。さっきよりもさらに深いため息が口から漏れた。 「北山(きたやま)?」  後ろから聞こえた柔らかな低音に心臓が小さく跳ねる。誰かなんて問うまでもない。  振り向くと、白シャツにジレを身につけた男性が、ランチバッグを手に立っている。私の失恋相手、結城櫂人(ゆうきかいと)だ。  この四月にアメリカの日本国大使館から本省に戻り、異例の早さで首席事務官となった。さらに私と同じ経済局の中にある『APEC(アジア太平洋経済協力)室』の室長に抜擢された。外務大臣から『未来の日本を創る人間のひとり』と言わるほどの人材なのだ。  その上、容姿端麗と長身の持ち主とくれば、モテないはずがない。実際、あからさまな誘いをサラリとかわす姿を見たのは一度や二度ではなかった。
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