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「どうかしたのか? ため息なんてついて」
『どうかした』の〝どうか〟は間違いなく職場のことだ。ひとりぼっちで弁当を広げてため息をついているなんて、仕事で失敗したか人間関係がうまくいっていないかのどちらかだと思われても不思議はない。
「なんでもありません」
答えを聞いたらすぐに立ち去ると思ったのに、彼は意外なことを口にする。
「隣、空いているか?」
「あ、はい」
反射的に答えてベンチの端に寄ったものの、どうしてわざわざここに? と疑問が浮かぶ。
「悪いな。さすがに日陰じゃないと厳しいからなぁ」
彼は人ひとり分空けた反対側に腰を下ろすと、手に持っていたランチバッグから弁当箱を取り出した。
どうやらここで昼食を取るつもりらしい。あたりを見回すと日陰になっているベンチで空いているのはここだけだ。納得すると同時に、気まずい思いが込み上げてくる。
私が好意を持っていたことに彼本人も気づいていたはずだ。そうでなければあんなプライベートな重大事項をただの部下に教えるはずがない。
『彼女の息子の父親は俺だ』
定時後に呼び出された会議室で、ドアを閉めるなり彼はそう言った。予想だにしなかった言葉の羅列に頭が真っ白になった。声も出せないでいるうちに、首席は別れた元恋人との間に子どもを授かっていたことを説明した。
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