9370人が本棚に入れています
本棚に追加
首席の恋人がお弁当屋さんだとは知っていたけれど、家庭用のお弁当に詰めてあるとそのすごさがほんとうによくわかる。
ほうれん草のごま和え、蓮根のきんぴら、肉巻きの切り口からはいんげん豆とにんじんが覗いている。仕切りのリーフレタスやミニトマトが彩りを添えていて、見るからにおいしそうだ。そっくりそのまま料理の本に出ていてもおかしくない。
中でもひときわ目を引いたのは、焦げ目なんてどこにも見当たらない鮮やかな黄色をした卵焼きだった。
自分の弁当に視線を戻した瞬間、盛大なため息をつきそうになったがなんとかのみ込んだ。
きっと私は彼女が弁当屋の娘だからと心のどこかで侮っていたのだ。自分は仕事ができる。首席に近いのは自分の方だと。
なんて愚かだったんだろう。卵焼きひとつまともに作れないくせに、思い違いもいいところだ。
「あの……彼女さんはその後……」
うつむきがちに尋ねる。
「ん? ああ、あのことか。彼女なら本当にもう気にしていないよ。前にもそう言っただろう?」
「すみません……それならよかったです」
相手は私の顔なんて見たくないだろうと思って首席に謝罪の伝言を頼んだが、合わせる顔がないというが一番の理由だった。本当は直接謝るべきだったかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!