空家

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 夕方、清(きよし)は住宅地を歩いている。今日は塾があって、その帰りだ。その横には友達の拓也(たくや)もいる。拓也も塾通いで、清と一緒に行き帰りしている。  と、清は立ち止まった。何か気になる事があったんだろうか? 拓也は不思議に思った。 「どうしたんだい?」 「いや、あの家が気になってね」  清はある家を見上げた。その家は廃屋のようで、もう何年も誰も住んでいないようだ。物心つく頃からそこにあって、とても気になっていたようだ。 「ふーん」  と、拓也は提案した。そこに行ってみようよ。今夜、肝試しに行ってみようよ。 「今夜、入ってみようよ」 「いいよ!」  清はその提案に乗り気だ。夏休みなんだから、思いっきり遊ぼう。そして、みんなに自慢するんだ。  その夜、清はその家の前にやって来た。すでに拓也はそこに来ている。2人とも、友達と勉強会をすると嘘をついてやって来たようだ。  夜の住宅地はとても静かだ。辺りには誰もいない。人通りも少ない。 「ここかー」 「入ろうよ」  2人は家に入った。家は門が開いていたので、すんなりと入る事ができた。 「ごめんくださーい」  清は挨拶をした。だが、反応が全くない。誰もいないんだろうか?  2人は家の中に入った。中はとても暗い。そして、あまりにも静かだ。 「誰もいないな」  と、暗闇の中に老人がいる。その老人は寂しそうにしている。もう何年も誰にも会っていないようだ。 「あれ? この老人は?」  と、老人が振り向いた。2人の存在に反応したようだ。 「あんた、誰だい?」 「な、何でもないです・・・」  2人はびくびくしている。その老人があまりにも怖い形相で2人を見ているからだ。 「わしは、ここに何年も住んでるんだよ」 「そうなんですか?」  老人は寂しそうに語っている。この人は、このまま孤独に最期を迎えるんだろうか? あまりにもかわいそうだ。誰かに看取ってもらってほしいな。 「ああ。ここには仲睦まじい夫婦がいたんですわ」 「へぇ」  2人は驚いた。この家にはこんな過去があったのか。このエピソードを自由研究にできないだろうか? 「だが、ある日、その夫婦は殺されてしまった」  2人はゾッとなった。こんな恐ろしい過去があったとは。だから、ここは廃屋になったんだろうか? 「そんな悲惨な出来事があったとは」  いつの間にか、2人は震えている。老人はその様子を見て、不気味な笑みを浮かべている。 「怖いじゃろ?」 「うん」  だが、2人は思った。これは自由研究になれる。これで夏休みを思いっきり楽しめるだろう。  その帰り道、2人は夜道を歩きながら、あの家の事について話していた。2人はとても楽しそうだ。 「そんな家だったのか」  塾の行き帰りで何度も見た廃屋。だが、いい日々もあれば、悪い日もあったんだな。 「こんな悲しい歴史があったのか」 「そうみたいだね」  清は少しやる気が出てきた。明日からその廃屋の事を自由研究にまとめていこう。9月になったら、みんな驚くだろうな。 「そうだ、自由研究にできそうじゃん!」 「うん! やってみよう!」  その考えに、拓也も乗り気だ。なら、2人で共同研究にしよう!  その夜、清は変な夢を見た。いつもの帰り道だが、少し周りの景色が古そうだ。一体、どの時代だろう。 「うーん・・・」  清は首をかしげた。ここはどこだろう。全くわからない。  あの廃屋の前を通ったその時、叫び声が聞こえた。 「何するの!」 「キャー!」  清は不思議に思った。誰かが襲われているんだろうか? これは速く助け出さないと。  清は家に入った。そこには、老人にめった刺しにされている夫婦がいた。夫婦はすでに意識がないようで、大量の血を流して突っ伏している。 「ヘヘヘ・・・」  目の前には包丁を持った老人がいる。その老人は強い殺意を持っているようだ。  清はびくびくした。このままでは狙われる。どうしよう。 「清、どうしたの?」  と、清は母の声で目を覚ました。どうやら夢だったようだ。清はほっとした。もうこんな夢は見たくないよ。 「な、何でもないよ」  清は汗をかいている。昨日の夢がよほど怖かったんだろう。 「そう・・・。悪夢にうなされてたから、心配になって」  母は知っていた。清は悪夢にうなされていたんだと。 「だ、大丈夫だよ」 「そう・・・」  不安な事があったら、遠慮なく話せばいいのに。母はとても心配した。  地区水泳を終えて、清と拓也は帰り道を歩いていた。清は昨日の夢の事が気になってしょうがなかった。あの夢は一体何だろう。 「どうしたの?」 「昨夜、悪い夢を見ちゃって」  拓也は夢の事に反応した。それを聞いて、清は思った。まさか、拓也もその夢を見てしまったんだろうか? 「どんな?」 「昨日会った老人が夫婦を殺害する夢」  清は驚いた。まさか、拓也もその夢を見てしまったとは。ひょっとして、俺たち、呪われたんだろうか? 「えっ!?」 「自分も狙われたんだ」  拓也は驚いた。まさか、同じ夢を清も見ていたとは。あの家に行ったら呪われたんだろうか? 「そんな・・・」 「助けて・・・、助けて・・・」  その時、その廃屋から声が聞こえた。誰の声だろう。死にそうな人の声だ。 「誰?」 「いいから来て・・・」  2人はその廃屋に入った。だが、そこではあの老人が夫婦を殺していた。あの夢と同じだ。まさかそれが現実に起きているとは。 「えっ・・・」  その時、老人がこっちを向いた。2人の気配に反応したようだ。 「ヘヘヘ・・・」  老人は包丁を持って近づいてくる。2人は何もできずに立っていた。 「ギャー!」  そして、2人は老人にあらゆる所をめった刺しにされ、殺された。  後でわかった事だが、この空家には殺された夫婦の怨念と殺した老人の怨念が宿っていて、そこに入った者は老人に殺されるそうだ。  2人の遺体が見つかったのは、その翌日だ。それを救助した人々もその翌日に死んだという。
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