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僕らは互いに無言で見つめ合っていた。
昨日も今日も隣に居たキミが、明日からはもういなくなるのだ。どちらかが言葉を発したら、何かが爆ぜてしまう気がして身動きが取れなかった。
ジリジリと鳴くアブラゼミが、息を呑んだように鳴き止んで、我に返って再びまたジリジリと呻く。それは不良品の時限爆弾のタイマーが僕らを弄んでいるようだった。
「自首……しなきゃ。僕と警察に行こう」
キミは僕を見つめたまま目を見開いて、それから俯いた。
「行くさ、一人で行ける」
僕の感情はその間目まぐるしく変化し続けていた。悲しくて、悔しくて、寂しくて、誇らしくて──。
「自首くらい、付き合わせてよ」
僕はキミと違って勇気がなくて、それから自制心という臆病な言い訳を持っていた。
僕らの共通点はこの狭い世界の異分子だという点に尽きる。
キミはアフリカ系アメリカ人の父親と日本人の母親がいる。日本人の社会では確実に少数派だった。そして僕は幼少期に病気で右脚を失った義足の人間だ。今は至って元気だけれど、義足特有の歩き方はこの先もずっと変わらないだろう。
異分子であるということは、他にも共通点をもたらした。それはいじめの対象だということだ。特に僕は陰気な雰囲気があるらしくてそれはそれは盛大にいじめられていた。
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