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キミは右手で持っていた、丸めた体操着を見下ろした。包まれたものが何なのかは判然としないが、そこから赤い血が滲み出ている。左手に僕の義足を持っていた。
「これ。必要だろ」
差し出された義足を僕はただ受け取る。数時間前、抵抗虚しく強引に義足を奴らに外されて、僕は自尊心を踏み躙られ、泣きながら壁を支えにケンケンをして帰宅した。中学校から徒歩十分の距離が何時間にも感じ、恥ずかしさと悔しさで涙が止まらなかった。
「僕のこれを取り返すために……刺したのか?」
キミが僕から遅れること二時間、この家にやってきて開口一番こう言ったのだ。
『富田を刺した』
その言葉を疑う余地はなかった。右手に持っていた体操着から滲むドス黒い赤色。いや、そもそもキミが僕に嘘をつくなんてことは今まで一度もなかったし、キミならやるだろうと感じていた。
「それを取り返すためにじゃない。いつかやり返すと決めていたから刺した」
確かにキミがその時の為にナイフを隠し持って登校していたことを僕は知っていた。
「自首……しなきゃ。僕と警察に行こう」
そうだよ。警察が来る前に自首だ。じゃないと更に重い罰が科せられる。
キミは僕のすっぽりと抜けた脚と、義足を見てから僕の同行を断った。
「ただ、サヨナラを言いに来ただけだから。一人で行くよ。ここでサヨナラだ」
ここから僕らは押し問答をし、それはこれまで何度も似たようなやり取りをしてきたことを思い出させていた。
『ここは俺がやるから』
『いいって、この敵は僕の職業の方が向いてるから』
流行りのゲーム内で僕らはいつだってそうやって小さなことで揉めていた。キミは先に敵を倒したがりの無鉄砲なパワータイプのアタッカーで、僕は防御力の高いタンク職を好んだ。
『行けるから』
『待って、待って。僕が敵を引き付けるってば』
つい一週間前の会話が鮮やかに蘇る。
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