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影武者の活躍
私が任務を遂行するにあたり、当初の具体的な目標は、日本人の人と人との関係性を希薄にすることであった。
なぜなら、人と人との信頼感や協力体制が強固であればあるほど、危険分子の思想は広まりやすく、阻止する事が難しくなるためだ。
日本人の多くが孤立化してしまえば、どんな危険思想も構想も共感者を集める事が難しくなり、広まる前に消滅させられるからだ。
人間関係の基礎部分を不安定にすることで、社会は必ず弱体化する。
まず、母親が子どもを産み育てる方法の改革である。
それまで日本で主流だった母親が子どもを抱いて寝る習慣は親子の愛情関係を深めるため、真っ先に阻害しなければならなかった。
乳児をベビーベッドに寝せることの有用性、子どもが成長したら、子ども部屋に一人で寝かせることの意義と利点を日本国内に広めるため、その方向性に見合った言動を舞妓せしめ、反論するものの脳波は完膚なきまでに弱体化させる等、私はコントロールしてきた。
或いはまた、男女平等関係の法整備を整えさせ、女性も男性同様にフルタイムで仕事をすることが当然であるという個々人レベルでの意識改革を進めた。
夫婦が共に働くことで親密度は薄れ、精神的・経済的に独立して生活可能となった夫婦に関して言えば、離婚率を大幅にアップさせることができた。
同時に働く女性や労働者を支援する意味で、コンビニの開発には多大な力を注いできた。コンビニの台頭により、いつでもどこでも手軽に食事を手に入れることが可能な社会が実現し、それまで手作り弁当に頼らなければならなかったために容易に独立できなかった人々を、家庭から引き離すことに成功した。
さらに、独身者の結婚願望を引き下げ、少子高齢社会に拍車をかけるという二重、三重の成果を挙げた。
私はまた、ファミコンから始まったコンピューターゲームやネットゲームの開発にも猛烈に力を注いできた。ゲームに熱中した子どもたちは、外に出て太陽の下で健康的に体を動かす遊びを捨て、家に籠って画面を見つめる時間が長くなった。このことにより、他の子どもと遊ぶ時間は大幅に減少した。人間関係のノウハウを学ぶ重要な時期に子どもを孤立化させ一人遊びに夢中にさせることで、人間関係を築き上げる方法がわからない日本人を増やすことに成功した。そうした子どもの多くは成人した後、或いは成人する以前から、学校や社会に適合できず脱落して引きこもりになる等、子どもの孤立化対策は、私の想像をはるかに超える大きな成果を挙げたのである。
同時にメディアリテラシーをコントロールして、日本人全体の意識の稚拙化を図ってきた。
例えば、多くの日本人が興味を示す健康に役立つ情報等を利用し、栄養、睡眠、運動、生活習慣などの検索で、最も目立つところに特定の簡単明瞭な情報を組み込む。
『体重50kgの人は1日に50gのタンパク質を摂取することが理想』
というような情報である。
繰り返し繰り返し、似たような情報を擦り込むだけで脳波そのものをコントロールするまでもなく簡単に、情報の信憑性を疑いもせず、有益な知識を得たと思い込む。
その情報の途中に、1日分のタンパク質が手軽に摂取できるプロテイン等の広告を入れると、情報捜査の巧妙さにまんまとつられて、その商品に多額のお金を投入する。それが元で家族や友人が仲違いをすることもある。
小金持ちの高齢者は知らず知らず持ち金を巻き上げられる。
だが、このメディアリテラシーの本当の目的は、金を巻き上げることではない。常識を作り替えることである。
かつて日本人は、家族や友人、教師や上司、ご近所さんという幅広い人間関係の中で、知恵や力を出し合い、相談し、協力し、問題解決することを日常としていた。
だが現在は、何か問題を解決するにあたり、まず最初にネットで検索するという日本人が大半を占めている。
情報操作したい私にとっては、願ったり叶ったりである。
日本人同士の信頼関係や人間関係を希薄にするために、もっとも有益な情報を目立たせ、多量に流布することを助長すればよいだけだ。
どんな問題も、平易な言葉で具体的に案内し、検索した人間が、そこで満足を得るように仕向けるなら、多くの人間は、それ以上に深い真実を求めようとはしないのである。
平易な言葉で安直に理解した気になってしまう。そうして人々は便利さと引き換えに、深く考慮する意欲を失い、裏の裏まで考えもせず、脳の活動量が減少し、ゆっくりと稚拙になってゆくのである。
何が常識か?!
ネット検索で最もそれらしく説明された、最もわかりやすいサイトの言葉が、日本人の残念な常識を形成してゆくのである。
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