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side 関 悠二
背が高くて、スーツが似合う。
ここまでだけでも結構100点。
目元が涼しげで仕事が出来る。
もうほぼ満点に近い。
恋人がいるくせに誰にでも優しい。
ここで減点。
自覚が無い人たらし。
もう破滅的に落第点。
「あっ!タバコがねぇ…関、一本くれよ」
ガラス張りの喫煙ルーム。
カウンターになったテーブルに頬杖をついて透き通るようなブラウンの瞳がこちらを見て微笑んでいる。
「買いに行けば良いじゃないですか。まだ時間ありますよ」
素っ気なく返事を返してタバコを出してやらない。
ブラウンのキラキラした瞳を瞬きさせて、フンと軽く鼻を鳴らすのは上司の宝井 守39歳、俺の恋人だ。
「関はさっきの新人にヤキモチ妬いてんのか?」
桜が雨ですっかり散り、葉桜になりきった頃、新入社員の女子が動いた。
同性であり、上下関係にある俺と宝井課長の関係はもちろん社内で秘密だ。
知っているのは同じ営業一課の先輩上司である高橋さんと同期の榎木くらい。簡単に言ってしまうとその二人も付き合っている。榎木の七年越しの片想いが入社して実ったらしい。
話はそれたが、つまるところ、俺も宝井課長も独身彼女なしという設定になっている。
今年入社した美人の沢田ひより…。
肌が白く、スタイルも悪くない。
根っからの女好きを公言している宝井課長も、例に漏れず、彼女を美人だと言っていた。
「妬いてませんよ、バカバカしい」
彼女は今日、朝礼後に宝井課長のデスク前に立ち、彼を飲みに誘ったのだ。
しかも、饒舌に仕事で悩みがあると。宝井課長はその類の相談を拒まない。リサーチが行き届いていて鼻につく女だ。
「ふぅん…可愛くねぇなぁ」
俺の吸っていたタバコを指先から奪い、薄い唇に咥える。
「俺は可愛くないですよ。先に戻ります」
消す必要のなくなったタバコの紫煙を纏いながら喫煙ルームを出た。
廊下を真っ直ぐ歩いて、トイレに入る。
洗面台で手を洗い、フゥーッと息を吐き出した。
「あ、関、タバコ終わったの?」
入って来たのは同期の榎木だった。
「あぁ…うん」
「課長は?」
「まだ吸ってる」
「関、顔色悪くない?」
「…いいや、んな事ねぇよ」
俺は手のひらで自分の頰を軽く撫でて苦笑いした。
ポンと肩を叩かれる。
「何?」
ジロッと榎木を睨む。
「おまえさ、思ってるより顔に出るからね、課長のこと」
「なっ!何であの人が出てくんだよ」
「沢田だろ…朝の、俺も聞こえてたし」
俺は一瞬固まってしまい、俯いた。
「嫌なら嫌って言えよ。あの人、ノンケなんだし…まぁ、普通に心配だろ?女と二人なんて」
「…だからだよ」
「え?」
榎木は首を傾げる。
「ノンケだからこそ…俺なんかが引き留めらんねぇよ。あの人が決める事」
「…関ぃ…ちゃんと言葉にしないと伝わらないよ?」
「あぁ、はいはい!お節介な榎木くんはココに何しに来たのかな?さっさとションベンして高橋さんとこ戻れよ」
俺は乱暴に吐き捨てて一課に戻った。
優しくしてくれてんのに俺はバカだ。
榎木も良く一年愛想を尽かさずに俺とつるんでくれたもんだ。
パソコンを開き、頼まれていた書類を作る。今日は早く帰ろう。
家に帰って、撮り溜めているドラマや映画を見るんだ。
違う事に頭を使わないと感情が上手く、まとまらない。
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