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side関 悠二
離れから庭を歩き、店の中を通り、そのまま大通りに出てタクシーを捕まえた。
支払いもせず…っていつも課長が払うから…俺一回も払った事ないや…。
結婚…
俺にとって結婚が幸せになる日が来るなら…別れるって言った。
課長と?別れる?
ボタボタと膝が濡れていく。
タクシーの運転手がバックミラーで「お客さん、大丈夫?」と聞いてくる。
そう言われて、俺の涙なんだって、認識した。
グズグズと腕で涙を拭い「大丈夫っす」と苦笑いした。
追いかけて来ない。
沢田の話がしたかったんだ。俺たちの話じゃない。それなのに…どうして。
首元に手を置くと、じんわり痛んだ。
噛まれた痕も、身体中にあるキスマークも、俺が大好きなあの人の愛し方。
他の誰かに
同じ事をしないでくれ。
他の誰かを
同じように…愛さないでくれ。
ヒックとしゃくりあげた俺は、もうタクシーの運転手を無視して泣いた。運転手は最初こそ心配したが、声をあげて泣く俺に、迷惑そうに眉を顰めた。
自分のマンションに着いた頃、何処かで見ていたかのようにタイミングよく携帯が鳴る。
相手は課長だ。
「もしもし…」
「家か?」
「…はい」
「…今から」
「来ないでください」
「…会いたい」
「来ないでください」
「関…おまえに会いたいのは俺のワガママだって分かってる…それでも…今、会いたいよ」
「……ぅゔ…狡い…狡いんだよっ!あんた、いつもそうだっ!俺ばっかり!…俺ばっかりあんたが好きなのかよっ!」
「いいか、関…抱くから準備しとけ」
電話が切れたのに、愛しい声が聞こえていた携帯が耳から離せずに、また泣いた。
いつからこんなにも女々しくなったのか。相手なんて、使い捨てのおもちゃみたいに変えてきたのに…あの人だって、そうだったはずなのに。
早く…早く側に…
側に来て下さい。
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