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side関 悠二
インターホンが鳴り、あの人がやって来た。
俺があの人の家の鍵を持っているように、あの人だって俺の家の鍵を持ってる。それなのに、わざわざインターホンを押すような意地悪をする。俺がちゃんと迎え入れるか確認したいんだろう。
「…はい」
「関くんのお宅ですか?」
「…鍵、持ってますよね」
「…ただいまって言うから…おかえりって…言えよ」
俺は無言でオートロックを解除する。
それから玄関のインターホンが鳴るまでジッと扉の前で待った。まるで忠犬ハチ公だ。
ピンポーンと、待っていた音が鳴ると勢いよく玄関を開けた。
そこには宝井課長が苦笑いして立っていた。
「…ただいま」
俺はその声に我慢も効かなくなり、抱きついた。
スーツの襟を引き寄せ、首筋に鼻先を埋める。
甘いムスクの香りに溺れそうになりながら、俺は震える声で呟いた。
「…おかえり…なさい」
重い玄関扉がゆっくり閉まる。
俺の身体は入ってすぐの壁に押さえつけられていた。
「…ハハ、泣いてる…」
「何で…笑うんすか…」
「笑ったか?」
「今だって満足そうに笑ってるじゃないですか」
宝井課長は俺の手首を更に強く壁に押し付け、耳元で囁いた。
「お前の泣いてる顔が…好きなんだよ」
あぁ…そうだった。この人は本当にSっ気の強いたちでいけない。
涙を拭う術が無く、ギッと課長を睨みつける。
「煽り上手だな。好きだって言ってんじゃん、その顔」
そう言って唇を塞がれ、甘いムスクの香りは更に強く俺を包む。
抱きしめられ自由になった腕は、拒否するわけもなく、課長の腰にしがみつくように回っていた。
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