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13 side関 悠二 インターホンが鳴り、あの人がやって来た。 俺があの人の家の鍵を持っているように、あの人だって俺の家の鍵を持ってる。それなのに、わざわざインターホンを押すような意地悪をする。俺がちゃんと迎え入れるか確認したいんだろう。 「…はい」 「関くんのお宅ですか?」 「…鍵、持ってますよね」 「…ただいまって言うから…おかえりって…言えよ」 俺は無言でオートロックを解除する。 それから玄関のインターホンが鳴るまでジッと扉の前で待った。まるで忠犬ハチ公だ。 ピンポーンと、待っていた音が鳴ると勢いよく玄関を開けた。 そこには宝井課長が苦笑いして立っていた。 「…ただいま」 俺はその声に我慢も効かなくなり、抱きついた。 スーツの襟を引き寄せ、首筋に鼻先を埋める。 甘いムスクの香りに溺れそうになりながら、俺は震える声で呟いた。 「…おかえり…なさい」 重い玄関扉がゆっくり閉まる。 俺の身体は入ってすぐの壁に押さえつけられていた。 「…ハハ、泣いてる…」 「何で…笑うんすか…」 「笑ったか?」 「今だって満足そうに笑ってるじゃないですか」 宝井課長は俺の手首を更に強く壁に押し付け、耳元で囁いた。 「お前の泣いてる顔が…好きなんだよ」 あぁ…そうだった。この人は本当にSっ気の強いたちでいけない。 涙を拭う術が無く、ギッと課長を睨みつける。 「煽り上手だな。好きだって言ってんじゃん、その顔」 そう言って唇を塞がれ、甘いムスクの香りは更に強く俺を包む。 抱きしめられ自由になった腕は、拒否するわけもなく、課長の腰にしがみつくように回っていた。
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